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映画酒場、旅に出る(SEOUL編_その2)

2018.05.29

映画 酒場

映画をめぐる小さな物語をつづった個人冊子『映画酒場』発行人であり、エディター&ライターの月永理絵による旅日記。(月2で更新中)

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「映画酒場」「映画横丁」編集人による、2018年冬のソウル滞在記。映画と本と酒の記録。

2月26日(月)

ソウル滞在2日目。西大門からソウル駅まで歩き、ロッテ・マートで食料品の買い物をする。ロッテ・マートは昨日行った寂れたスーパーとは比べものにならないほど広く、品揃えも多い。食材を買い込み、ついでに隣のアウトレットモールを覗く。お昼は、ソウル駅近くにある食堂でビビンパとユッケジャンを食べる。値段はそれぞれ7000ウォン(約700円)ほど。

seoul2_02一度ホテルに買い物した荷物を置き、早速本屋巡りへ。まずは『本の未来を探す旅 ソウル』で紹介されていた、アート系の本を扱うという本屋「THE BOOK SOCIETY」へ。ちなみにソウルで地下鉄やバスに乗るならまずはT-moneyを購入し、ここに随時お金をチャージしていくのが便利。地下鉄の料金は東京よりもだいぶ安く感じる。3号線で景福宮駅へ向かい、地図を見ながら歩く。カフェや食堂など小さな店が立ち並ぶ道をいくつか通り過ぎると、ガラス戸に書かれた「THE BOOK SOCIETY」の三角のロゴを発見する。張り切って2階に上がってみるが、ドアは閉まったまま。あれ、と思ってよく見ると、月曜日は定休日という文字が。がっくりするも、休みとなれば仕方がない。本屋巡りはまた今度にして、次の予定、西村(ソチョン)でのホン・サンスの映画『ヘウォンの恋愛日記』のロケ地散策へ向かう。

『ヘウォンの恋愛日記』
は、ホン・サンス監督が2014年に製作した映画。その物語は、映画学校の教授(映画監督)と不倫関係にある女生徒ヘウォンが、恋人関係を解消しようか続けようか悩みつつ酒を飲み街を歩き……というホン・サンス映画を見慣れている人にとってはいつものパターン。映画のなかで、ヘウォンは北村で母とご飯を食べたあと西村まで歩き、母が昔通っていた学校を眺めたり、カフェでお茶をしたり、公園を散歩したりする。実はこの映画のロケ地を調べて丁寧に紹介したサイト(ばつ丸の「ロケ地を旅する」)を事前に見ていたので、この旅ではおおいに参考にさせてもらった。

seoul2_03まずはヘウォンが教授と過ごした旅館「有名荘」を探すと、先のサイトに書かれているように現在は「SU MOTEL」に変わっていた。そのまま坂を登っていくと、ヘウォンが母とふたりで古本を眺めていたチベットの雑貨を扱うお店が見つかる。ただしこちらは定休日。坂を登り、図書館を通ったあと、小学校の目の前にあるという母娘がコーヒーを飲んだ小さなカフェを探してみるが、どうやらお店が変わってしまったようで別のカフェができている。せっかくなので中に入り、コーヒーを注文する。そういえばソウルで「コーヒーを」と注文すると必ずと言っていいほど「エスプレッソかアメリカンか」と聞かれる気がする。店内のあちこちに絵や古着が展示されているうえライブもできるスペースがある。カフェ兼イベントスペースといったところか。コーヒーを飲んだあとは、教授や生徒たちが飲み会をしていた焼肉屋を探しにいく。現在はお店がすぐ隣に移転したらしく、地元の食堂のような雰囲気だった。こうしてまわってみると、ヘウォンが通う大学やハイキングに出かける南漢山城は別として、その他のロケ地はほぼ徒歩10分圏内に収まっているのがわかる。映画自体も、案外短期間でささっと撮ってしまったのかもしれない

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最後に、映画のなかで何度も登場する社稷(サジク)公園に向かう。公園の中心には、赤い柵に囲まれた、かつて土地と穀物の神様を祀っていた祭壇跡がある。ヘウォンの真似をして写真を撮ったあと、入口に掲げられた解説を読んでいると、突然係のおじさんに韓国語で話しかけられる。「すみません、韓国語はわからなくて」と英語で答えると「Are you Chinese?」と尋ねられる。日本人です、と答えるとあからさまにがっかりした顔をされ、ドキリとする。ちょっと待っていろと言ったままおじさんは事務所へ行き、一枚の紙とペンを持って戻ってきた。「This is SA-JI-KU-DAN, OK?」と片言の英語を言いながら次々に漢字を書いていく。なるほど、さっきの落胆した様子は、日本語では解説ができないためらしい。それでも英語と漢字で説明してくれるという親切心が嬉しい。「Why 社, 土地神?」(なんで「社」が土地の神様かわかるか?)と質問形式のおじさんの解説に、こちらもノリノリで答えていく。

だがしかし。外の気温は3℃程。風の吹く中立ちっぱなしで話を聞いていると、私たちの体は次第にガタガタと震えてくる。それなのに、おじさんは元気そのもので、10分経ち、15分が過ぎても解説は終わらない。話を聞いていると、王朝時代の遺跡として有名な宗廟と景福宮に次いでこの社稷壇も重要な遺跡らしいが、そのわりには観光客があまり来ないらしく、それがガイドの彼としては不満らしい。たしかに私たち以外の観光客は見当たらない。みんな宗廟や景福宮ばかりもてはやすがここも重要な場所なんだ、と熱心に言うのを、よくわかります、と何度も頷いてみせる。ホン・サンスの映画を見て来ただけだとは言い出しづらい。すでに30分を過ぎた頃、なんとか話を切り上げようと「いやあ、本当にいい時間でした。記念にこのメモに使った紙を持って帰っていいですか?」と片言の英語で聞いてみる。最初は「何言ってるんだこんな汚い走り書きを」と慌てていたが、「ぜひ旅の記念に」とお願いすると、照れたようにメモを渡してくれた(その後も「ちょっと待て、まだ言ってないことがあった」と再びメモを奪われたけれど)。何度もお礼を言って別れると、急いで近くのコンビニへ駆け込む。冷え切った体を暖めているとふつふつと笑いがこみ上げてくる。

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次に向かったのは、鍾路3街にあるSEOUL CINEMA。建物自体は普通のシネコンだが、そのなかにCINEMATEQUE/ART CINEMAという名のミニシアターが入っているという。エリック・ロメール特集や北野武特集などおもしろい企画が行なわれているうえに、そのビジュアルがいつもかっこよく、以前から気になっていたのだ。映画は見られなくても、チラシやポスターだけでもチェックしたい。繁華街を抜けると大きなシネコンのビルが目に入る。ロビーには、ハリウッド超大作から韓国映画までいろいろな作品のポスターやチラシが置かれている。韓国の映画チラシは、日本とは違いほとんどがA4サイズで紙も厚手。洋画に関しては日本よりもシンプルなデザインが多いが、韓国映画の方では四つ折りの豪華チラシがあったりと、工夫を凝らしたものもある。

seoul2_10CINEMATEQUE/ART CINEMAの最新の特集チラシも発見。どこかで見たことのある写真だなと思っていると、瀬田なつき監督の『PARKS』だった。『映画横丁』4号でも取り上げた、橋本愛さん主演、吉祥寺公園を舞台にした映画。特集テーマは「春の映画散歩」、その他の上映作品は『牯嶺街少年殺人事件』や『岸辺の旅』『ダゲレオタイプの女』『20センチュリー・ウーマン』など。劇場内にも入ってみたかったが、この日はすでに閉館され、外から眺めることしかできなかった。

夕飯は、コンビニで買った缶ビールとキムパプ(韓国風海苔巻き)で済ませる。韓国の缶ビールはあまり美味しくないという噂を聞いていたが、疲れた体にはすっきりした味のビールが美味しい。ロッテ・マートで買ったフルーツ焼酎(ゆず味)も試してみる。氷を入れて飲んだ方が美味しいかも、と思いながら、スナックをつまみについつい飲み干してしまう。

月永理絵
1982年生まれ。エディター&ライター。
個人冊子『映画酒場』の発行人、映画と酒の小雑誌『映画横丁』(株式会社Sunborn)などの編集を手がける。http://eigasakaba.net/

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