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ヘテロトピア通信 第22回

2020.12.01

ヘテロトピア 通信

2014年からはじまった「鉄犬ヘテロトピア文学賞」の情報発信ページ。選考委員ら(井鯉こま、石田千、小野正嗣、温又柔、木村友祐、姜信子、下道基行、管啓次郎、高山明、田中庸介、中村和恵、林立騎、山内明美、横山悠太)によるコラム “ヘテロトピア通信” も更新中。 (題字/鉄犬イラスト:木村勝一)


鉄犬ヘテロトピア文学賞についてはこちら

<再会のための終わりに/第7回鉄犬燭台贈呈レポート>Text by Yusuke Kimura

 鉄犬ヘテロトピア文学賞を7年も継続できた、その原動力のひとつは、受賞者を囲んでの贈賞パーティーの楽しさにありました。しかし今年は、新型コロナウイルスの感染事情により贈賞パーティーを開催できず、受賞者それぞれに正賞となる鉄犬燭台をお渡しすることとなりました。小野和子さんには宅配便で、小林エリカさん、瀬尾夏美さんには手渡しで、無事にお渡しすることができました。

 みなさん、造形作家の木村勝一氏(八戸在住の筆者の兄)が精魂こめてつくったゴツい鉄犬燭台にまず驚き、そして心から喜んで下さったご様子。
 小野さんは「本当にうれしくて、うれしくて、どんなものをいただいたより、うれしい気持ちです」「早速、赤くて太い蝋燭を置いて、灯をともしました。体中があたたかくなりました」とメールで伝えてくださいました(兄にもお礼の電話をしてくださいました!)。
 小林さんは「瀬尾夏美さんと小野和子さんの、ほんとうにすばらしい二冊と一緒に同時受賞できたことが、何よりもしあわせです。すばらしい賞をありがとうございます」と、瀬尾さんと小野さんの本を大切そうに掲げて仰いました。
 瀬尾さんは「お皿を差し出している金色犬の姿は、あちこち歩いて、『話を聞かせてください』と回っている自分のあり方と重なる気がしています」「いま聞かれるべきことば、手渡されていくべきことばを、ひとつでも多く形に残したいなと思います」とお伝えくださいました。
 選考にかかわった者としては、受賞者が喜んで下さる様子に毎回ホッと胸をなでおろし、賞を受けて下さったことへの感謝と、この賞をつづけてきてよかったという喜びに包まれるのでした。

 10月30日には、鉄犬ヘテロトピア文学賞をテーマにした座談会がありました(「週刊読書人」11月20日号に掲載)。座談会には、選考委員の井鯉こまさんと温又柔さん、そして小林エリカさんが参加。ぼくも立ち会いました。
 その座談会で小林さんは、小野さんと瀬尾さんの受賞作を読み、「わたし、これがしたかったんだ」と思ったそうです。話を聴かせてくれる相手の言葉を揺れながら受けとめる。その姿勢に、小林さんはご自身の創作の方向と共通するものを感じたそうで、その場にいたぼくは、受賞者同士がつながる瞬間を見たように思い、深く感銘を受けたのでした。

 これで2014年から7年つづいたミッションは、すべて終了となります。選考委員のみなさま、ホームページを作成してくださった「SUNNY BOY BOOKS」の高橋さん、いままでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。ここから地下茎が伸びるように、あちこちで、思わぬところからこの文学賞の精神を受け継いだ芽がでて花が開くことを夢想しています。どこかで、ひょっこりと、新たな鉄犬仲間にでくわすかもしれませんね。
 だから、これまで関心を持って見守って下さった皆さまには、感謝とともに、このように締めくくりの挨拶をしたいと思います。
 またお会いしましょう!

鉄犬ヘテロトピア文学賞事務局・木村

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小野さんは「もう少し頑張るぞ、と灯に囁きました。きっといいものを書きますね」ともお伝えくださいました。なんとうれしいお言葉!

★小林さん写真
満面の笑顔を浮かべる小林さん。座談会では「たどり着きたい未来に向かう、そのけもの道の地図をもらったような気がしています」と話されました。けもの道!

★image
姜信子さんとのイベントに参加された瀬尾さんに鉄犬燭台をお渡し。なんと、昨年の受賞者である川瀬慈さんも駆けつけてくださいました!

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木村 友祐 (きむら・ゆうすけ)
1970年、青森県八戸市生まれ。
日本大学芸術学部文芸学科卒業。
著作/『海猫ツリーハウス』(集英社)、『聖地Cs』(新潮社)、『イサの氾濫』(未來社)、『野良ビトたちの燃え上がる肖像』(新潮社)、『幸福な水夫』(未來社)、『幼な子の聖戦』(集英社)、温又柔さんとの往復書簡『私とあなたのあいだ』(明石書店)。

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