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ヘテロトピア通信 第7回

2016.02.15

ヘテロトピア 通信

2014年からはじまった「鉄犬ヘテロトピア文学賞」の情報発信ページ。選考委員ら(井鯉こま、石田千、小野正嗣、温又柔、木村友祐、姜信子、下道基行、管啓次郎、高山明、田中庸介、中村和恵、林立騎、山内明美、横山悠太)によるコラム “ヘテロトピア通信” も更新中。 (題字/鉄犬イラスト:木村勝一)


鉄犬ヘテロトピア文学賞についてはこちら

<第2回鉄犬ヘテロトピア文学賞「受賞の言葉」>

大変、大変お待たせしました。第2回鉄犬ヘテロトピア文学賞の受賞者、横山悠太さん、井鯉こまさん、松田美緒さんより、受賞の言葉が届きました。
受賞者のみなさんが、この風変わりな賞の意義を理解して喜んでくださったことに、(事務局の木村も)胸が熱くなる思いでした。2020年までという期限つきですが、これからも賞をつづけていこうという励みをいただいたのです。受賞者のみなさま、こちらこそ、ありがとうございます。

ー受賞の言葉ー

横山悠太 〈受賞作『吾輩ハ猫ニナル』(講談社)〉

この度はすてきな賞をくださいまして、ありがとうございます。鉄犬の燭台も大変気に入っております。受賞の喜びと同時に、こんな賞が世にあるということ自体にも喜びを感じております。
『吾輩ハ猫ニナル』は、言葉の表記に拘泥した、いびつな作品です。読み返してみると、けっこうイライラします。白状しますが、これは遊び半分で書き始めたものです。そして、書き進めるうちにそれが半分以上になり、ついには徹底的に遊ばなくてはならなくなりました。小説とはこういうものか、と驚き、少し恐ろしく思いました。
この作品がとりわけ拘泥したのは、片仮名の用い方でした。片仮名は、外来のものを容易に取り込むことができます。また、人々は「心」を「ココロ」、「福島」を「フクシマ」などと変換して、意味をずらしたり、新たな意味を呼び込もうとしたりします。そういう意味では、片仮名は多分に「ヘテロトピア」な文字と言えるかもしれません。ただ、それは当然ながら、漢字と平仮名から差別化されることで、「在来」と「外来」、「日常」と「非日常」などの線引きが発生します。ぼくはこんな日本語を厄介にも感じてしまいます。病的と思われるかもしれませんが。

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井鯉こま 〈受賞作『コンとアンジ』(筑摩書房)〉

とつぜん、賞をもらいました。いただいてはじめて知った文学賞です。知らないところからとつぜん励まされた歓びに、胸が高鳴ります。

ある日、ふと疑問に思ったのです。「世界史」の「地図」をぱらぱら眺めていたとき。「大航海時代」という時代がはじまり、地球が狭くなったかのような描き方だ、と。このページののち、「地図」はどことなくつまらなく、寂しく、一辺倒にみえはじめ、よくよく考えると「大航海」というのもまあ、なんともえらい威張りようだなと、そう思いました。だれの「大航海」なんだろうか。で、その「世界史」って?

私は「大航海時代」の舞台を歩くことにしました。舞台のほうでは、どうやら「大航海」とは思っていないようでした。人も土地も、生きていて、雑多です。
私は見知らぬところを一人で大丈夫だろうかと緊張しながらも、気負って、鼻息を荒くしながら歩いていたのですが、すぐ道に迷うのです。それで、乗りものに頼ることになるのですが、あろうことか寝てしまう。すると、自分の境界や価値観がめちゃくちゃになる出来事に、巻き込まれている。そんなことを繰り返していた気がします。
それってなんか、意味あんの? といわれてるように勝手に当時は思ってたけど。そのときの私に、いつもの日本語の風景ががらりと変わったよ、という賞をもらった! とおしえてやったら。きっと、小躍りすると思います。
鉄犬ヘテロトピア文学賞に選んでいただき、ありがとうございました。

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松田美緒 〈特別賞受賞作『クレオール・ニッポン うたの記憶を旅する』(アルテスパブリッシング)〉

このたび『クレオール・ニッポン』に特別賞をいただき、本当に有り難うございます。もともと自分が歌う日本の歌を探したいという思いで始めたプロジェクトでしたが、歌の故郷を巡り、歌っていた人たちに出会うたびに、ひとつの歌にどれほどの「記憶」が秘められているかに驚嘆しました。「うたの記憶を旅する」という副題は、歌じたいが持つ土地や人、時代の記憶を旅したいがためで、歌うこと、書くことによってその記憶の片鱗を残すことができたらと思ったのです。3年間、ライブとフィールドワークを続け、録音したCDを聴きながら、夏休みの自由課題を仕上げるように夢中で取り組みました。その自由課題にこのような賞をいただいて、子供のように嬉しく思います。そして、今回、素敵な盾とともにいただいたことば「ヘテロトピア」が、私も含めて、様々な土地と結び合うクレオールな歌たちの居心地のよい住処となりました。これを励みにまた歌探しを続けたいと思います。

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ハプニング第2回鉄犬ヘテロトピア文学賞の贈賞式は、昨年12月20日の日曜日、前回と同じ、神保町の漢陽楼にて開催されました。その模様も写真で少しだけお届けします。
新たに3人の鉄犬仲間をお迎えした贈賞式は、横山さんの鉄犬燭台のプレートに刻まれた書名の「吾輩」が「我輩」になっていたという痛恨のハプニングがありながら(でもそれゆえに?)、笑いに満ちたにぎやかな会となりました。会の終わりには松田さんが、カーボ・ヴェルデの歌「SAIKO」を歌ってくださり、まさに最高・ハッピーなしめくくりとなりました! 歌の力は、やっぱりつよいなぁ!
(by 木村友祐)

【開会の言葉】           【高山さんお祝いの言葉】
開会の言葉高山さんお祝いの言葉

 

 

 

【温さんと井鯉さん】        【管さんの話を聴く】
温さんと井鯉さん管さんの話を聴く

 

 

 

【フィナーレ】
フィナーレ

 

 

 

 

 

 

 

〈写真/尾島 敦〉

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