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それぞれの道具「道具と出合う、本の中へ」 13 ”トロッコ”

2017.08.07

中澤 季絵

中澤季絵(なかざわ・きえ)イラストレーター/絵描き  絵で暮らしをいろどる楽しさを軸に幅広く活動中。理科系出身、生き物がとてもすきです。脇役蒐集人。このページでは、本の中の道具を描き連載中。 www.kienoe.com

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トロッコ

「その後(のち)十日余りたってから、良平は又たった一人、午(ひる)過ぎの工事場に佇みながら、トロッコの来るのを眺めていた。すると土を積んだトロッコの外(ほか)に、枕木(まくらぎ)を積んだトロッコが一輛(りょう)、これは本線になる筈(はず)の、太い線路を登って来た。」

『蜘蛛の糸・杜子春』新潮文庫より
「トロッコ」 芥川龍之介 作

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それは良平が八つの年の出来事だった。
村外れの工事場で見つけたトロッコ。
ある日、トロッコに興味津々だった良平は、若い二人の土工と一緒にどんどんと山奥へ入っていく。
日暮れの頃、たった一人で村まで引き返すことになるとは思いもせずに。

夕暮れ。行きとは違って見える山道。
急に暗闇が大きく見えて、心細くなる感覚。

まだ子どもだった頃、時間を忘れて友達と駆け回ったあとの薄暗い帰り道を思い出して、少し背中がざわつく。大きな夜が迫ってくるような、あの感じ。家が恋しくて泣きたいような、あの気持ち。久しぶりに思い出した。

「まだ知らない世界にわくわくして飛び込みたいこと」と「慣れた安心感に一刻も早く戻りたいこと」とは、
いつもどこかくっついていて気持ちを揺るがす。良平が必死に山道を駆けていく様子、大人になり、
ふとこの出来事を思い返す良平の姿から思い浮かんだのはそのことだった。

大人でも、子どもでも、関係ないんじゃないかな。生きている限りなくならないかもしれない揺らぎ。
まだ知らない「これから」が不安で途方に暮れたり、涙がでたりすることもある。
でも、ほんとは大丈夫だと思うんだ。

私たちにはこの身体とこの心がついていて、その気になれば駆け出すことができるから。
大事にしてきたものは決してなくならないし、道の先にはいつだって、
望む景色をみつけられるから。

 

 

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2017/9/2ー9/14
SUNNY BOY BOOKSにて、本コラムの原画展を開催します。
本の紹介はもちろん、これまでの制作過程も。道具と出合う2週間へようこそ。

(情報はHP等に掲載します)
www.kienoe.com

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