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それぞれの道具「道具と出合う、本の中へ」 6 ”指揮棒”

2015.04.15

中澤 季絵

中澤季絵(なかざわ・きえ)イラストレーター/絵描き  絵で暮らしをいろどる楽しさを軸に幅広く活動中。理科系出身、生き物がとてもすきです。脇役蒐集人。このページでは、本の中の道具を描き連載中。 www.kienoe.com

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指揮棒

 

「そこでぼくは思った。よし、五体でぶつかってやれと。
これが通ぜず落選したらしかたがない。その時にはスイスにでもゆっくり遊びに行こうと
クソ度胸を固めた。ぼくは腕だめしのつもりで大胆に棒を振っていった。」

『ボクの音楽武者修行』小澤征爾 作 新潮文庫より

 

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ページを繰っていく。
少しずつ軽くなっていく。
一緒に風に乗るように。

この本は、著者が指揮者として活躍し始めた頃の自伝的エッセイ。
まだ26歳だった。

そのときのわくわくが響いてくるから
身体のなかの細胞が、それに応えるようにふるえるのかもしれない。
本の終わりのその先が楽しみになって、もっともっと進んでいってと
応援したくなってしまう。
手紙。音。風。景色。におい。人。気持ちの断片。
ときどき顔をのぞかせる不安さえも全部、味方にして。

きっと「すごいこと」だけ拾った文脈なら
こぼれ落ちてしまうだろう、ちいさな気付きや
身近な人やものに向けられた愛情をちゃんと書き留めてくれたから、
場面のひとつひとつが高さや、奥行きや、幅のある空間としてあらわれる。

今、この瞬間が旅だよねと何気なく話しかけてくれる本。

毎日のちいさなパーツが生み出す浮力に気付いたら、
さっきより軽い足取りで、見落としそうな大事な存在とも
手をつなぎ歩いていけるかもしれないよ。

 

 

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