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新しいかけらと秋の仕草にむけて 第1回

2017.08.05

清水美紅

清水美紅(しみず・みく)1984年生まれ。群馬県出身、東京都在住。自分の心の挿絵のような感覚で絵を描く。2017年9月に当店で二回目となる展示フェア「新しいかけらと秋の仕草」に向けた創作日記を連載中。 http://shimizumiku.com/

この秋、SUNNY BOY BOOKSで個展をさせていただきます清水美紅です。
このコラムは毎回、サニーさん(SUNNY BOY BOOKS店主高橋さん)よりいただいた質問から始まります。

最初はどんな質問かな?

20170806_column

Q1:「こんにちは。お元気ですか?
美紅さんの絵と本人に出会ってかれこれ4年とちょっとが経ちますね。
はじめて目にしたときから神秘的な物語を感じる作品は印象的でしたが、
とりわけぼくは深く澄んだ彩りの世界に魅せられています。
昨年出版された10年分の画集をみても、洗練されていく青の表現にどきりとしました。
そこで今回、ぼくがおたずねしたいのは美紅さんにとって色とはどんな存在ですか?ということです。
とくに青についても。使いだした理由や思い出などあれば教えてください。」

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A1:「サニーさん、こんにちは。
暑さにまいっていましたが、今は元気です。
サニーさんも元気だといいな。


質問ありがとう。


色のこと。

私はまだ、色の旅の途中だなと思います。
色の旅は、自分の色を見つける旅です。
スタートは白。
ゴールは自分の色をたくさん得て、それを重ねたり隣あわせることができるようになったとき、かな。

私はほんとうに、まだまだだ、と思っています。
自分の色って、誰のまねでもない自分の心が現れている色。
自分が使っていて、苦しくない色のこと。

自分の色を見つけることは、とってもつらくて、くるおしくて、うまくいくと嬉しいこと。
むずかしいと思った矢先に、ほろっと気軽に絵筆からうまれるような、
なんとも不確かな、届きそうで届かない、見えたと思ったらまだまだつづく旅。
それが私にとって色という存在。


サニーさんが、「深く澄んだ彩りの世界に魅せられている」と言ってくれたこと、嬉しいです。
けれどじつは、私はずっと色に苦手意識がありました。
話にでた10周年記念の画集にのせた最初の絵は2005年。
私は子どものころから絵が好きでしたが、この年にほんとうに絵に向き合おうと決めました。
それと同時に色が使えなくなってしまいました。
使いたい、けれど使えない苦しさ。

絵の具から出して紙にぬればよい、理解しているけれどできない感覚をわかってもらえるかな。
サニーさんは寝起きはよいほう?
起きなきゃ、でも眠い、体が動かない、そんな感じに似ています。

この頃の絵は真っ白に細い黒線。色はちょっと添える程度でした。
スタートは白と前述したのはこの経験から。


青は、いつも使っている黒のペンを紺にしてみようと思ったのがきっかけです。
絵を描いて4年目のことです。

個展を年に一回開くなかで、あるひとが「青が綺麗ね。」と、
ぽつりと言ってくれたから、紺のペンに手が伸びたのだと思います。
苦手で、ちょっとしか使うことができない色のなかから、青を見つけてくれたことが嬉しかったんだと思う。
このひととは今も友達。
青は初めて、他者と関わることによって、見つけることができた自分の色でした。

初めて紺のペンで描いた時、紺色の線に、ちょっと添えていた絵の具が偶然混ざりだしました。
マゼンタ色が紺にとけてなんとも言えない青紫になっていくようす
私も「どきり」としました。
きれい、もっと使ってみたい。

私は青に、はまってしまったのでした。

青といってもさまざまです。
薄い青、群青色、紫っぽい青、紫っぽい薄い青、緑に近い青、緑に近い銀色がまざった青、
はじいている青、かすれている青、一回ぬって消した青、水っぽい青、点々の青、
黄色をめだたせるための青、ピンクにとける青、紙の上の青、木の上の青、、、
私は青を多用するようになりました。

その絵たちは私には、カラフルに見えました。
こんなにたくさん色を使えている!って、何度も思いました。

でも個展では、話題は青のことばかり。
どうして青なんですか? 好きなんですか?
私はもうわけがわからなくなってしまいました。
こんなにたくさん色を使っているのに。
みんなに見えているものと、私に見えているものは違うんだ。
絵を見てもらえて嬉しいのに、うまく答えられない。
どうして青なんだろう、、。


それから8年、どうして青だったかは、今もわからないけれど、
20代は青に向き合う時間で、青の幅を知れてよかったです。
青はカラフルだと思えるほど、使う時間を多く過ごせたことは今の色にきっと繋がっている。
早く30代になりたかった私にとって、若い自分に向き合う時間でした。
描き続けていたら、だんだん、青ともいいおつきあいができるようになりました。
青との関係が落ち着いた。

思い出としてはこんなところかな。


今個展にむけて描いている絵の色は、秋の黄金の光、実りの暖色。
色の旅の途中の私は、パレットの上で、ああでもないこうでもないと、旅の楽しみを感じています。
初めて、みかんを描きました。
使うのが苦手だったオレンジ色を使うことができました。
思ってもいなかった意外な色や、今この瞬間の気持ちがまざってできる自分のオレンジ色です。

絵において、色はとっても大事、だけれど、もっと大事なのは画家の魂を感じられること。
色の旅のゴールに行けたら、そういう絵がかけたらいいなって思っています。
たまにはコーヒー飲んだり景色を眺めながら、色の旅をつづけるよ。」

 

清水美紅
※個展「新しいかけらと秋の仕草」は2017年9/16-9/28の開催です。
http://shimizumiku.com/
https://twitter.com/simizu_miku

 

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