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新しいかけらと秋の仕草にむけて 第3回

2017.09.03

清水美紅

清水美紅(しみず・みく)1984年生まれ。群馬県出身、東京都在住。自分の心の挿絵のような感覚で絵を描く。2017年9月に当店で二回目となる展示フェア「新しいかけらと秋の仕草」に向けた創作日記を連載中。 http://shimizumiku.com/

この秋、SUNNY BOY BOOKSで個展をさせていただきます清水美紅です。
このコラムは毎回、サニーさん(SUNNY BOY BOOKS店主高橋さん)よりいただいた質問から始まります。

前回はこちらです。

第3回はどんな質問かな?

20170903_column

Q3:「美紅さん、お返事ありがとうございました。
印象的だったのは「「おんなのこ」は私で、あなたでもある。と密かに思っている。」ということ。
言葉にしてもらってそうだよね、って何だか嬉しくて、
その開かれた感じが描かれているあの子と自分との繋がりを感じる隙間みたいに思えてきて、
そんなところも楽しくて美紅さんの絵をみているんだなーと気づきました。

そして色にしても、モチーフにしても絵の中のひとつずつに
丁寧に向き合っている姿がたくましくも思えてきました。
描くことが生きることになっているんだなーと感動しました。

で、感想ばかりが長くなりましたが、聞きたいことですね。
今回は「季節」について。
ここ最近の展示が「つゆ」「天気」「春」「秋」と季節を帯びていますよね。
すっかり季節の人って感じですが、美紅さんにとって季節はどんな存在ですか?
また絵を描く前と後で季節の見え方も変わってきたのでしょうか。
季節をめぐるあれこれ聞かせてください。」

///

A3:「サニーさん。こちらこそ、お忙しいなかありがとうございました。
感想と質問、読みました。

描くことが生きることに、なっているといいなーと思います。
たくましさ、感じてもらえてよかったよ。

言葉にすると伝わるよね。
伝わったことが嬉しいです。
言葉にすることは時にこわいけれど、言葉にすることあきらめたくないな。
黙っていても伝わったら、それはとても素敵だけれどね。

季節ですね。
季節について、深く考えたことがなかったので考えてみます。

「つゆ」は、サニーさんのお店での個展、2015年の「つゆ色のスカーフ」だよね。
梅雨。6月の個展でした。
仰るとおり、あのころからタイトルに季節をいれています。

季節はここ数年、意識しつづけている存在かなと思った。
深く考えてはこなかったけれど、興味をもっているというか、観察している感じ。

私は、ぼんやり生まれて、ぼんやり成長しました。
ほとんど子どもの状態で絵を描きはじめ、青い絵を描いていたころ、
私は季節を意識できていなかったように思う。
暑い、寒い、そのくらい。
それはそれで良かったけど、今はちょっと違います。
季節を意識するということは、
毎日微妙に違う世界のかんばせに目をこらすこと、かな。

季節を意識し始めたきっかけは、きっと花です。

いっとき、まわりに植物を仕事にしている人や、
植物が好きな人たちが、たくさんいました。
彼らに花について教えてもらったり、
植物を育てたりするようになりました。
きれいだな、不思議だな、生きているなと思った。

花の存在が身近になり、絵に花を取り入れるようになりました。
お花屋さんの花も、道や民家に育つ花も、季節によって違います。
花は季節によって変化がある。
そんな当たり前のことを、花を自分のこととして意識したら、理解できたのでした。

そして季節によって変化があるのは、花だけではないということを思いだしました。
湿度とか、風の感じとか、匂いや光が、毎日少しずつ変化しているんだ。
天気もそう、常に違う。
子どもの頃に肌で感じていたことを、ぼんやりと成長するうちに忘れてしまっていたようです。
懐かしかった。
知っていたのに。

こうして季節に目をこらすようになりました。
ぼんやり生きてきましたが、季節のことを覚えるたびに、自分に輪郭がついていくような思いでした。

この時期は、この光の感じ、くっきり。
この時期は、この花が咲く、くっきり。

季節を意識しつつ、季節の花を描くことによって漢字書き取りのように、
季節の記憶をつみかさねていきました。
花や風をカギに、記憶から実感をとりだせるようになったことが、いちばんの変化かな。
絵にも役に立つし、実生活にも役立ちます。
むくげが咲いているということは、そろそろほんとうの暑さがくるから、
熱中症に気をつけよう、というふうに。

今回の個展「新しいかけらと秋の仕草」は、
花はもちろん、果物とか、風、光、人物の仕草で、秋を描きました。
風にかたちはないけれど、秋の風はこういう感じだったかな。
光はゴールドかな、まっすぐ薄くのびていたような、気がする。

思いだして、描いて。
断片的な記憶。断片的な実感。
それはかけらみたい。
去年の秋の私、もっと前の秋の私や友だち、こまかいこと。
かけらをよく見てみる。嬉しい、切ない。
そしてまた、新しいかけらが作られる。
来年にむけて。

サニーさん、季節について考えるうちに思ったんだけれど、
私が描いている絵は、ここで生きています、っていう絵なのかも。

私は、季節を意識することによって、生きる輪郭を得て、
ここに立っているという感じがやっとしてきた。
絵の中の「おんなのこ」は私で、絵の中で、季節を意識して立っているのかも。
(座ったり寝ていることも多々あるけれど。)

私はここで、秋を生きています。
絵を見ているあなたも、ここで秋を生きています。
「おんなのこ」は、私であり、あなただから、きっと、そういうこと。
私たちはべつべつの人間、だけれど、
絵を見る時、ここに立つ時の季節は一緒だから、
季節が、絵とあなたとを結ぶきっかけになれたらいいなと思って、
タイトルに季節を入れているんだとわかりました。

絵を見る方が、絵を見ると生きることに少し輪郭がつく、
そんな絵が描きたいと今思いました。
見る方にたいして、見方を決めつけるのがいやで、決めてこなかったけど、
願いのように、ふと、今思いました。

言葉にすることは時にこわいけれど、思い切って書いてみました。
伝わることもあるものね。

まだ描いたことのない季節もあるから、より季節の人になれるように描いていきたいです。
季節について、考えることができて、意外なことがわかって、よかったです。
ほんとうにありがとう。

清水美紅
※個展「新しいかけらと秋の仕草」は2017年9/16-9/28の開催です。
http://shimizumiku.com/
https://twitter.com/simizu_miku

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