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「機械」「戒厳令」

2015.09.01

ponto

ponto…2014年3月、小説家・温又柔と音楽家・小島ケイタニーラブが、朗読×演奏によるパフォーマンスをはじめ言葉と音を交し合いながら共同制作するために結成したユニット。同年9月、構成・音響・演奏をとおして2人の活動を支える伊藤豊も雑談家として加入。 SBBで行われている温又柔と小島ケイタニーラブの創作イベント「mapo de ponto」でできた作品をこちらのページで公開中。

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【音楽家から小説家への手紙】

お手紙ありがとうございます。
この前の手紙、僕はややずるい返事をしてしまったかもしれません。
僕は手紙への返答として、言葉を捨て、声だけで返事をしたのでした。
そう、歌はやっぱり自由なのでしょう。
もし、僕が言葉だけでお返事しようものなら、
きっと狂った機械のようになってしまったかもしれません。

僕にとってあなたは「戦う人」です。
得体の知れないナニカにいつでも真正面からぶつかって、そのぶつかった火花が、
僕にはとても美しく、はかなく、まぶしく映ります。
舗装され、無駄が消え、ノイズがなくなってキレイになっていく世界の中で、
あなたは、それでも必要な「異物」です。僕にとって。

+++++

sono9 「機械」(小島ケイタニーラブ)

新しい街がついにできたよ
計算通りのキレイな街
ピカピカ輝く歯車たちが
回ってる 回ってる

ギーコ、ギーコ、ギーコ……

新しい街がついにできたよ
不快なものはいらないよ
あたりさわりない挨拶をしよう
不謹慎は入れないよ
油をささなくちゃ 油をささなきゃ

ギーコ、ギーコ、ギーコ……
ギーコ、ギーコ、ギーコ……

計算通りに呼吸をするのさ
狂ったネジは牢獄行きさ
僕らはキレイな機械になるのさ

キレイな街、キレイな街
キレイな顔、キレイな顔
キレイな声、キレイな声
キレイな街、キレイな街
キレイな夢、キレイな夢

油をささなくちゃ

キレイな街の計算違いの
狂った機械が閉じ込められてく
牢獄の中で愛を誓うよ
不謹慎な夢を見ようよ
狂った言葉で愛を叫ぶよ
キレイな街、狂った歌を……

+++++

横光利一『機械』新潮文庫
引用:「私はもう私がわからなくなって来た。
私はただ近づいてくる機械の鋭い先尖がじりじり私を狙っているのを感じるだけだ。
誰かもう私に代って私を審いてくれ。私が何をして来たかそんなことを私に聞いたって私の知っていようはずがないのだから。」

 

 

Nau 9 『戒厳令』(温又柔)

投票所では銃剣を突きつけられる。
選択肢は二つ。
Yesか、死か。
白い紙が束になって舞いあがる。
“独裁者”という言葉がこの国にはない。

“我らの偉大なる指導者”と、頬を赤くした子どもたちが叫んでいる。
彼らの叔父や兄や姉たちは地下に潜りこむ。

「Yesか死か。
否。
NOと生だ。」

笑えない。

投票所で<我らが偉大なる指導者を尊敬します>と熱っぽく語る人々の大半は、失業者と服役期間の短縮を望んだ囚人たち。金で買った忠誠者たちは光の速度で世界各地に流される。

――その頃地下では

「笑おうよ。でなければ、かなしみだけが充ちていく。
うたおうよ。かなしみにひれ伏すのはまっぴらだ。」

うれしい、とか、たのしい、とか、よろこばしい、とかー
とぎれとぎれに匂いたつ希望の気配が、ざらざらと彼らを嬲る。

ウツクシイ街の、外れの、地下室で……
彼らは肩を組んで歌をうたう。愛をちかう。不謹慎な夢をみる。
ウツクシイ待ちをじゃらじゃら汚す、彼らの命のリズム。

“よろこべと命じられてよろこぶなんてまっぴらだ”。

地下にさざめく笑い声……偉大なる指導者が褒めてつかわす健やかなる者どもをののしったり、せせら笑ったり……

戒厳令下の国にうまれたかれらは、いま、生きる喜びを知ったばかり。

“希望は絶望に対する渾身の抵抗”

“偉大なる指導者”の秘密警察はかれらの計画を嗅ぎつける。“愛国心”の向上とともに培われた彼らの嗅覚は、地下から洩れでる自由のにおいを敵視する。

Xの姓名。
Yの生年月日。
Zの学歴。家族構成。

若き“謀叛者”たちの個人情報が写真付で町に晒される。
XとYとZたちの頬は痩せこけて、その容貌はもう半世紀も生きたふう。

16才、17才、17才、16才。

13才の少女は“星になる”と叫んでみずからの舌を噛んだ。

機械になるのを拒絶して、身ひとつを武器に希望を求め“星“となった者たちの家族が、この国からのがれようと夜明けの港をでていく。
ウツクシイ街の住人たちは、出ていく彼らに同情を示しつつ、銃殺された謀叛者たちへの羨望が疼くのをこらえきれずにいる。
地下室は“偉大なる指導者”の忠実な軍によって封鎖され、ウツクシイ街はよみがえる。





投票日がやってくる。18才を迎えたばかりの少女が、投票所で膝から崩れ落ちる。その姿は光の高速で世界中に中継された。かのじょの兄はかつて民主化を求めて立ちあがり“独裁者”に殺されたのだとこの国以外の人々にたちまち知れわたる。

――兄を失ったあの年、私も13才だった。

機械仕掛けの国を命からがらで逃げだしたかのじょは、改訂版世界地図の前で訴える。

――機械になるのを拒んで星になったあの子と私の兄とその仲間たちは命を懸けて求めたもの……
それは自由です。

……封鎖された地下室に光が射しこむのなら……壁を踊る文字が見えるはずだ。

“希望は絶望に対する渾身の抵抗”

(了)

 

【店主の一言メモ】
歯車を壊して、自由を求める同士たちの叫び声が、
この音と物語を通して私たちの胸に響きます。
今日もまたどこかの、ぼくらの街で ーー 耳をすませてみてください。

ムービー撮影:朝岡英輔

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