ヘテロトピア通信 第13回
2016.10.17
2014年からはじまった「鉄犬ヘテロトピア文学賞」の情報発信ページ。選考委員ら(井鯉こま、石田千、小野正嗣、温又柔、木村友祐、姜信子、下道基行、管啓次郎、高山明、田中庸介、中村和恵、林立騎、山内明美、横山悠太)によるコラム “ヘテロトピア通信” も更新中。 (題字/鉄犬イラスト:木村勝一)
ヘテロトピア通信〈海城祭〉text by横山 悠太
東京のJR新大久保駅の辺りでは、韓国人や中国人だけでなく、東南アジアや中東の人々ともよくすれ違います。
エッセイを頼まれた次の日、僕は「ヘテロトピア」なるものを求めて、外国人が集うこの場所へやってきました。この辺りは百人町というので、多国籍化したこの地にぴったりの町名です。(もとは家康が警備のために組織した「鉄砲組百人隊」が由来だそうです)
さて、早速ぶらぶら散策を楽しんでいると、いろんな顔立ちが行き交う中に、プラカードを持った日本の中高生が、30メートルおきぐらいに立って、「カイジョーサイのカイジョーはあちらです」と言いながら、人々をどこかへ誘導しているのでした。僕は興味をもって、その誘導に身をまかせ、線路の下をくぐって、なだらかな坂を登っていきました。
すると、そこは元海軍予備校の中高一貫の男子校で、ちょうど学園祭が行われていました。名門校のようですが、僕は東京の学校事情に疎いので知りませんでした。「中高一貫」も「男子校」も未経験です。
手作りの朱色の入場門をくぐると、正面にステージがあって、中学生が賑やかなパフォーマンスをしていました。あつあつのおでんとガリガリ君を同時に早く腹に収めることを競っているのでした。そのあとで、女装した男子がステージに登場しました。皆なかなかの完成度で、不覚にも僕の胸は高鳴ります。でもそれ以上に、観客のお母様方のはしゃぎようといったらありませんでした。
もちろん、真面目で優秀な学生もたくさんいました。中でも地学部の展示はすばらしく、鉱物の標本を前にして、多角的な興味深い解説をしてくれました。これは真面目かどうか分かりませんが、暇をもてあましたある生徒が、眉間にしわを寄せ、ホワイトボードに数式を書きなぐっていたのは印象的でした。
昼は芝生のグラウンドで行われていた学年対抗のサッカーの試合を眺めながら、学食でカレーライスを食べました。僕は中学も高校もサッカー部だったので、とても懐かしくなりましたが、芝生でプレーしたことは一度もありませんでした。よく膝小僧を擦りむいていたことや、練習後のトンボがけを思い出しました。カレーライスは、期待どおりの味です。
生徒たちによる漫才、落語、自主映画、ブラスバンド、管弦楽など、堪能しました。優劣に関係なく、ところどころで胸がいっぱいになりました。他にもいろいろな展示やパフォーマンスがあったのですが、紹介しきれません。僕は一日中校内を歩き回りながら、彼らの未来を勝手に夢想したり、かつての学校生活を追想したりしていたのでした。
この学校には何の関わりもない謎のおじさんとして。
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プロフィール
横山 悠太(よこやま・ゆうた)
1981年生まれ。岡山県出身。『吾輩ハ猫ニナル』(講談社)で第57回群像新人文学賞受賞、第2回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞。