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「日記」「わかってる」

2015.10.01

ponto

ponto…2014年3月、小説家・温又柔と音楽家・小島ケイタニーラブが、朗読×演奏によるパフォーマンスをはじめ言葉と音を交し合いながら共同制作するために結成したユニット。同年9月、構成・音響・演奏をとおして2人の活動を支える伊藤豊も雑談家として加入。 SBBで行われている温又柔と小島ケイタニーラブの創作イベント「mapo de ponto」でできた作品をこちらのページで公開中。

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【「SONG LINE-kanto linio-」を受け取ったあとの小説家から音楽家への手紙】

のっけから興奮がおさえきれません。
感動しました。
あなたの声による、声のみの、コトバのうねりが。

あなたにしか出せない声が、あなたをあなたの中に閉じこめようとする文字を食い破るのを感じ、私は、私を私の中に閉じこめようとする文字の外に這い出す勇気を得ました。
あなたとのやりとりは、大袈裟に言いきってしまえば、私にとって命綱を見いだす作業と近いのかもしれません。
あなたは私を「戦う人」と言いました。

確かに私は「戦う人」なのでしょう。
私は、私を、私が望まぬ何かに決めつけ、縛りつけようとすることごとくに対し、歯むかわずにいられない。

ときおり、自分は永遠に第一次反抗期を生きているのではないかと思うことがあります。
おしっこがしたいのに、おしっこしなさいと命じるときの保護者の態度が妙に気に喰わず、わざとおもらししてみせるような。
頭が弱いと思われてでも、日常をとどこおりなく送ることのみを人生の至上の目的とする大人たちを掻き乱して困らせてやりたい……と思うのです。

気をわるくしないでね。

私はあなたもきっと同類なのだと確信しています。
こんな私と一緒に楽しいだだをこねましょう。

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dek 10 「MARCH 31,2015←MARCH24,2015」K・A(1995-)の日記より(温又柔)

「MARCH 31,2015」

頭痛薬を、ラムネと呼んでみる。それから、すでに死んでしまっているという前提で、一週間分の日記を読みなおす。
今日の出来事のうち、いとおしめるのはそれぐらい。ラムネを服用してまだ3.5時間しか経っていないのに、次のラムネをほうりこみたくなる。口、のど、胸、胃、内蔵、そうして肛門……
ここ七日間、頭痛を鎮めるためだけに日記を書いている。
桜が早く散ればいい。

「MARCH30,2015」②

わたしが男なら、異性愛者の、ごくごくフツーの感性しか持ちあわせていないクソつまらない男なら、きっと彼(=わたし)はこの女(=わたし)を持て余す。
だからたぶん、Yは男にしてはマシなほうなのだ。
くそったれ。

「MARCH30,2015」①

Xとのtelのあとも、Yとのことを反芻した。
あれは一度きりしか起きていない。けれども何度(脳内)再生した?
Xに打ちあけたのは、Yを知らないXにとってのYは、架空の存在でしかないから。わたしの長い話をたっぷり聞かされたXは嘆息のあと一息に言った。
――あんたがひとりの人間について延々と喋るのはじめて聞いた。Yっての、なかなか大したヤツじゃん。
何とも貴重なご意見。

「MARCH29,2015」

ひどい頭痛。いっそ首をはねて欲しくなるほどの。
日曜日はきらい。
そこかしこで宴がくりひろげられていた。
人、人、人。
人いきれに息の根を止められるかと思った。
春がきらい。
桜はきらい。
憎いぐらい。
わたしには永遠に分からないだろう。
あの花に群がる人々の一人には絶対になれないだろう。
へそのあたりが疼いてしようがない。
(Yの指のふりをしてさすってみる)
早く寝ようと思って午前二時。

「MARCH28,2015」

遠くに行きたい。距離さえ保てれば、憎まずにいられる人々。
好きになりたい。
愛し愛されている、という状態を、盲目的に信じてみたい。
でもわたしにはその才能が欠如しているようだ。
人を好きになれない。
人に好かれることに興味がない。
たぶん自分自身を、愛しすぎているせいだ。
Yは、おそらく察知している。
わたしの性質。わたしの性癖。

「MARCH27,2015」

花見に誘われる。
少量のアルコールで頬を赤くする私を、三年生たちがカワイイとはやしたてた。
うれしくない。むしろきもちわるい。
カレシいるの、と聞かれる。
そのイントネーションがきらい。
そのことばづかいがきらい。
その人間関係の結び方がうっとおしい。
ビールをこぼしたわたしを、みんなが笑った。
男だけじゃない。
女たちも。
――だいじょぶ、だいじょぶ。カワイイよ。
みまわすと、だれもが適当な笑みを浮かべて、適当な充実感に満たされてるようす。
きもちわるい。
たぶんわたしは余りに自己中心的すぎる。自意識が有り余ってる。
今日はそれがよくわかった。
人生はつづく。生きてる限り。わたしもつづく。死なない限り。
きもちわるい。
帰り道、日曜日が盛りだね、と話してた老夫婦の声が、わたしを威圧する。
三十年後の、四十年後の、半世紀後のわたしは、あんなふうでは決してない。
老人になろうともわたしは桜をあいするものか。
Yなら分かってくれるだろうか?
頭の痛みが激しくなってきた。寝よう。

「MARCH26,2015」

N副教授は犯罪者だ。
わたしの断罪に、わからなくはない、と言ったものの、はっきりと同意をYはしなかった。
それがわたしは不満。
今、これを書きながら段々わかってくる。
わたしは、Yにももっと、N副教授を軽蔑して欲しい。
Yの内にほんの少しでもN副教授をうけいれる余地があることが許せない。
――それにしても、頭痛薬がてばなせない。もう三日連続。一日に二回はのんでいる。
Yのことが原因とは思えない。
アレは喜ばしきことであるはずなのだから。もういい。早く寝よう。

「MARCH25,2015」

息をととのえる。
頭痛薬、早く効け。

<乾隆帝が生涯をかけて編纂した『四庫全書』は、散文すなわち小説に価値を与えない。乾隆帝は詩文にのみ価値を見いだす。故にわたしも、詩文に価値を置く。>

故にわたしも?

その瞬間から、わたしのN副教授への軽蔑は本格化した。二言目には、教養ある大人になりなさい、だとか、きみたちは馬鹿になってはいけないよ、だとか言うN副教授を、わたしははじめから胡散臭いと思ってた。

故にわたしも?

権威をカサにきるあの男を、今では憎んでいる。いや、蔑んでいる。
……きのう、Yにわたしはそうまくしたてた。

Yは「否定的な感情を持続させるのはエネルギーが要るものだ。だからきみ(とYは言わなかったが便宜上そう書く)は自分で思っているよりもずっと生命力に漲った存在なんだよ。」
Yはさらにこうも言った。
「この瞬間だけ獰猛な野生動物を手なずけ自分のものにできたような気がする。」
だからわたしも言ってやったのだ。
「もっとわたしをかいならしてよ。」

小説には価値がない。詩文にこそ価値がある。

N副教授が、何に価値を見出だそうと勝手だ。どうでもいい。
Yに言いたかったのは、胡散臭い教師への批判ではない。
わたしはこう言いたかった。

<小説や詩に価値があったりなかったりするのではない。
その小説(及び詩)に価値があるか、どうかだ。>

「MARCH24,2015」

正直そうだから。
これが、私を選んだYの理由。
さっきから考えている。
YがPC内のデータを削除したら、その「小説」の存在は本当になかったことになる。そうなったら、それに目をとおしたことのある者は、わたしだけ。

Yは、夜どおしかけて書きあげたそれをプリントアウトした。
A4サイズの紙で、十五枚ほど。右端をホッチキスで綴じていた。
明朝体ではなくゴシック体のテキストは、一人称で書かれたものらしく、「私」が散乱していた。
(散らばっていたのが「俺」か「僕」なら……その場で突き返したかもね)

わたしは遠慮しない。
どうしてこんなものを読めというの?
Yはにやにや笑って「正直そうだから」と言った。

わたしが読んでる最中、Yは(少なくとも傍目には)落ち着き払った調子で缶コーヒーを啜ってた。無糖のやつ。わたしにYは微糖のを買った。
講義と講義の間の休憩時間。
だから読みおえるのに二十分もかからなかった。

「あなたは小説なんて書かなくても生きていける。」

Yはその場で彼の「処女作」を破り捨てた。そして笑う。「安心したよ。」その瞬間、わたしのYへの距離が消える。
瞼の裏で炎が揺れる。ゴシック文字が捲れあがる。「私」「私」「私」……焼却炉の中でYの「小説」が燃え盛っている。

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DIRTY『CARSON ZINE』(POPDROME service)「JANUARY 4, 2011ダーティ(1978-)の日記」より
引用:「呼吸が浅いまま読んだり書いたりしてひどい頭痛。あとから深呼吸しながらミントのお茶を2杯飲んでも治らず。
ロマンチックな気分で紛らわすためにジョーン・ジェットがカバーした〈クリムゾン・アンド・クローバー〉を繰り返し聞いて、ねっころがったままジタバタする。エロい。

 

 

sono 10 「わかってる」(小島ケイタニーラブ)

泡になり溶けてく ラムネブクブク
得体知れぬ何かになるのでしょう

半人前の未完成の指を走らせ
インクが尽きるまでこのまま

コメカミを刻んでく ガラスブクブク
私の血液が走ってる

わかってる
これっぽっちも何できない
ばかだね、なかだよ
加速する鼓動にあらがいたい

「わかってる」
言葉の海へ溶け去りたい
色付く季節を塗りつぶす

これっぽっちも何もできない
ばかだね、ばかだよ
加速する鼓動を塗りつぶす

あらがいたい
走ってる

 

【店主の一言メモ】
今回題材となったのが本ではなくZINEということもあり、
私的で、内面的な日記形式の物語となりました。
何者でもない自分への励ましにも聞こえる「わかってる」(アンサーソング)と一緒にどうぞ。

ムービー撮影:朝岡英輔

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