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映画酒場、旅に出る(SEOUL編_その1)

2018.05.09

映画 酒場

映画をめぐる小さな物語をつづった個人冊子『映画酒場』発行人であり、エディター&ライターの月永理絵による旅日記。(月2で更新中)

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「映画酒場」「映画横丁」編集人による、2018年冬のソウル滞在記。映画と本と酒の記録。

2月25日(日)

年末年始、私はとても疲れていた。新しく引き受けた仕事が思うように進まず、精神的にも、体力的にもずっとげんなりしていて、どこかへ行きたい、全然知らない場所をふらふらしたい、とそんなことばかり考えていた。だからといっていきなり何週間も休むわけにはいかないし、バカンスへ行くほどのお金もない。せめて近場でどこかへ……と考えながら、ふと、ソウルはどうだろうと思いついた。

ソウルには、過去に一度行ったことはあった。でも3泊4日の旅だったのでいわゆる観光名所を訪ねるだけで終わってしまった。どうせ行くなら観光よりもっと深く韓国文化に触れてみたい。となれば最低でも1週間は滞在したい。向こうはwi-fi環境も日本よりよさそうだし、パソコンさえ持っていけば仕事もそれなりにできるはず。そういえば、と思い出す。そろそろ『映画横丁』の次号をつくらなければと思っていて、できれば焼酎を特集してみたいとなあとぼんやり考えていたのだ。焼酎と映画となれば、やはり欠かせないのは韓国映画。何より、韓国映画には呑んだくれ映画の代名詞ともいえるホン・サンスがいる。ホン・サンスの映画では、とにかくみんな、緑色の瓶に入った焼酎を飲みまくる。今年の初夏にはホン・サンスの映画が一挙に4本(『それから』『夜の浜辺でひとり』『正しい日 間違えた日』『クレアのカメラ』)も公開されるし、となれば『映画横丁』の編集長としては実地調査をすべきなのでは……? と、やる気がむくむくと湧き上がる。最後のダメ押しは、連れ合いからの一言。「ソウル国立現代美術館でジョナス・メカスの展示が3月上旬まで開かれている。絶対に見たい」。こうなったらもう行くしかないだろう、とすぐに飛行機を手配し、1週間分のホテルを予約した。仕事は大丈夫か、なんて考えている暇はない。ある意味これも立派な仕事なのだから。

seoul01_011週間もの日程を組んだのには、もうひとつ目的があった。せっかく行くのだから、観光地だけではなく、ソウルの本屋や映画館も見てみたい。そしてもちろん酒場巡りも。そこで、今回の旅のために二冊のガイドブックを用意した。『本の未来を探す旅 ソウル』(内沼晋太郎、綾女欣伸 著、田中由起子 写真、朝日出版社)『韓国ほろ酔い横丁 こだわりグルメ旅』(鄭銀淑著、双葉社)。『本の未来を探す旅 ソウル』は、SUNNY BOY BOOKSの高橋さんにおすすめされた本で、近頃ソウルで次々に誕生しているという新しいタイプの本屋を取材した本。単なるガイドブックではなく、お店の人や編集者などにも丁寧に取材がされていて、近年の独立系本屋ムーヴメントを冷静に分析しているのがおもしろい。もう一冊の『韓国のほろ酔い横丁』は、その名の通り、ソウルの穴場的な酒場や食堂を紹介した本。なかには、ホン・サンスの映画に出てくる酒場も登場する。まずはこの2冊を頼りに、ソウルの街を歩いてみようと思う。

seoul01_02出発当日。3時間ほどのフライトで、昼過ぎに仁川空港に到着する。オリンピック閉幕間近だが特に混雑している様子はない。電車の乗り換えに迷いつつも、なんとかホテルにたどり着く。1週間の滞在ということで、今回は、西大門駅から徒歩1分の距離にある、キッチン付きのレジデンツを借りることにした。部屋は思った以上に広く、レンジや洗濯機もついているのが嬉しい。せっかくなので外食ばかりではなく地元の食材を買って自炊しようと、荷物を置くと、散歩がてら食料品の調達に出かける。実際に歩いてみると、前回来たときに泊まった東大門周辺との違いにまず驚く。駅周辺には大きなビルが立ち並び、いかにもビジネス街といった様子。日曜だからか、人通りはあまり多くない。スーパーや小売店はそれほど見かけないが、食堂などはそれなりにあるようだ。映画館もいくつかあるようで、日本のビジュアルとの違いを確認するため、ポスターを見かけるとカメラに収めていく。

seoul01_03旅の一番の楽しみは、現地のスーパーに行くこと。日本とは異なる食材やおかしを見るのは、観光スポットに行くよりも楽しい。だが、ネットで調べておいた駅直結のスーパーにたどり着くと、どうも思っていたのと印象が違う。たしかに野菜や肉などが揃っているが、種類も多くないし、値段もたいして安くない。何より人がほとんどいないので活気がない。購買意欲がわかず、とりあえずサムゲタンのレトルトでも買おうとするが、隣にあった骨つき肉の写真がのったレトルトが気になり、そちらを購入する。パックに入ったご飯、キムチ、韓国のり、ごま油、お菓子などを一緒に買い、部屋に戻ってレトルトを温めてみるが、これが大失敗。豚骨スープの素と言えばいいのか、白濁したスープには塩味もなく、具材も何もない。たぶん材料を色々入れて煮込むためのスープなのだ。今から具材を買いに行く元気もなく、しかたなく、コンビニで改めて買ってきた鶏肉を炒めたおかずとキムチ、温めたご飯で初日の夕飯を終える。ネットで調べてみると、どうやら近くに別の大型スーパーができたこともあり、先ほどのお店はすっかり寂れて人気がないらしい。この近辺でスーパーに行くなら、ソウル駅まで出てロッテ・マートを訪ねたほうがよさそうだ。早速明日の朝に行ってみることを決め、夜は、持ってきたパソコンでホン・サンスの『へウォンの恋愛日記』を見る。明日の午後は、この映画のロケ地、西村周辺をめぐるつもりだ。

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月永理絵
1982年生まれ。エディター&ライター。
個人冊子『映画酒場』の発行人、映画と酒の小雑誌『映画横丁』(株式会社Sunborn)などの編集を手がける。http://eigasakaba.net/

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