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「自由の果実(み)」

2014.07.15

ponto

ponto…2014年3月、小説家・温又柔と音楽家・小島ケイタニーラブが、朗読×演奏によるパフォーマンスをはじめ言葉と音を交し合いながら共同制作するために結成したユニット。同年9月、構成・音響・演奏をとおして2人の活動を支える伊藤豊も雑談家として加入。 SBBで行われている温又柔と小島ケイタニーラブの創作イベント「mapo de ponto」でできた作品をこちらのページで公開中。

unu 1 自由の果実(温又柔)

むかしは4月うまれであることが誇らしかった。だって誰よりも早くとしをとることができる。
でも今はちょっとユーウツ。
あさってにはもう21才になるなんて、なんで?なんでなの?って感じ。
ともだちが言う。
ミキのお祝いにみんなでスイーツ食べに行こうよ。
いいな~っと歓声があがる。
東京スイーツ特集の雑誌をぱらっと広げたリエちゃんが

じゃ~、ここ行こうよ~!!

と指さしたのが、自由が丘でオープンしたばっかのシュークリーム屋さんだ。

わたしは甘くてふわふわの、ぎゅ~っと濃ゆいクリームを想像してムネがいっぱい。
ホントは別にシュークリームなんて行列してまで食べたいわけじゃない、けど、みんなが盛りあがってるから、いいね~いいね~なんてうなずいちゃった。

ーー次の日、わたしは自由が丘に行かなかった。近くまでは行こうとした。
電車に揺られながら、ともだちの顔、いつものおしゃべり、そしてシュークリームの味をおもっていた。どうしてかわかんないけど心がちっとも弾まない。
次は自由が丘とながれる。おりなくちゃ・・・

わたしの斜め向かいの席の女の子たちーー大学生だろうかーーも、おりる準備をしている。一人の子はリエちゃんによく似てる。あの子たちもシュークリームがめあてだろうか?
電車の速度が徐々におちる。ホームにすべりこむ寸前、線路沿いに並ぶ家々のあいだから、まっさおな4月の空がみえた。その瞬間、ヤメタ!とおもった。
扉がしまる。私たちによく似た女の子たちが連れだってホームにおりてゆくのを窓ごしにみる。
私はケータイをとりだし、いつものメンバーにLINEをおくる。

ーーゴメン。おなか痛いので今日はやめとく。みんなで楽しんでね。

自由が丘が遠ざかる。
ウソをついたうしろめたさは、ちっぽけなものだった。
それよりもずっと大きな “いまから自由だー”という解放感わたしをおもいきりうれしくさせた。

それからわたしは、いちどもおりたことのない学芸大学でおりてみる。
気まぐれに過ごした弾みに、運命を感じる出会いを果たすことってホントにあるんだ
二十才最後の一日、うまれてはじめてそれを わたしは感じた。

なんとなく約束をすっぽかして、
なんとなく学芸大学でおりて、
なんとなくぶらりと入った小さな本屋さんで、
わたしはエミリー・ディキンソンと出合った。
正確にはかのじょの評伝『ことばと永遠』を見つけた。

I hate to be common.
私は並みでいることが大嫌い。

ーーほんとは、としをとるのがいやなのではない。
子どものとき、そう、お誕生日のたびに、少しずつおとなに近づいていくのが、うれしかったときの自分が、あんなふうになりたいな~とあこがれるおとなに、きっとなってはいない、 今のわたしは っておもわされるのがいやだった。

たとえばーーちっともいいって思っていないのに、みんながいいっていうから、いいね なんていっちゃうような。みんながいいとおもうものなら、きっといいものであるはずだといつもいつも自分に言いきかせているような。

レジでわたしはお店の人にいう。 “プレゼント用にして下さい。”

2014年4月17日

わたしは明日21才になる
わたしのためにわたしは
『ことばと永遠ーエミリー・ディキンソンの世界創造ー』を贈る。
今夜12時をすぎたら包みをとこう。
エミリーのことばに祝福されよう。

「わたしは可能性を
住居にしているーー
散文よりも美しい家でーー
窓も多いしーー
ドアだってーー飛びっきりーー」(p657・1-4)

ミキ もうじき21才 大学2年生
居住地:下丸子
本:酒本雅之著『ことばと永遠ーエミリー・ディキンソンの世界創造ー』(研究社)
引用:I hate to be common.(私は並みでいることが大嫌い。)

 

_自由の果実 (小島ケイタニーラブ)
自由の丘を 通り越して
私は春の果実
昨日の花を 明日の実を
抱きしめたい
永遠なんて ウソばかりね
永遠なんて 大嫌い

待ち合わせ すっぽかして
私は自由の果実
いつの日か いつの日か
永遠(とわ)の魔法になれ

永遠なんて大嫌い

 

【店主の一言メモ】
「自分が気になっていることや知りたいことがあると、本屋に行ってもちゃんとそういう
本が自分を呼んでいる。先日来たときには気にもとめなかった本が、今日は友人に思える。」
みたいなことを先日お客さんが言っていたのを思い出しました。
ミキもそんな風に本と出会って、本に誕生日を祝福されたんだと思うと嬉しくなります。
油断すると小島さんの歌詞にある“永遠なんて大嫌い”が胸に刺さって抜けなくなります。

 

ムービー撮影:朝岡英輔

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