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ボクサーの動物日記 1回目

2014.08.04

boxer

ダンサーとメッセンジャーという動物とは全く関係のない仕事をしながら動物への飽くる事なき探究心を持て余しているボクサーの動物日記。SBBにて「ボクサーのニッチな裏生物学講座」を不定期で開催中。

僕は一ヶ月ほど前深夜に自宅へと急いでいた。
終電の2個前ほどの東横線の電車はそんなに混雑しているわけでもなく、それでも田舎の私鉄のように閑散としているわけでもない。
学芸大学の駅を出て自宅へ帰る道すがらもパラパラと人が歩いている。
平日のしかも日付けを少し跨いでいたのでみな少し早足だ。
すると僕の前を歩くカップルが住宅街の空を見て足を止めている。
東京の空は明るく星がよく見える訳ではない。
なので僕は彼らが何を見ているのかと訝しがった。
ボクシングの輪島功一は得意技の一つに余所見があったが自分も御多分に洩れず彼らの視線の先にあるものに目がいった。
近づくと彼らの会話が聞こえてくる。

あれ、何かな?ネコ?猿じゃないよね?怖いから行こうよ。

動物?と僕の頭には浮かんだ。
その単語が浮かぶと唐突にこの都会で夜に、しかも上を見上げて訝しがるべき動物が僕の頭に浮かぶ。
都会でも色々な野生動物が生息しているがそれは見ずとも判断出来た。
ハクビシン。
それこそが今回の主役だ。

さて、ハクビシンだ。
元々は森に生息しているが街中の電線は彼らにとっては木の枝のようなものだ。
その日も彼は、若しくは彼女は電線を木の枝に見たて家々を移動していたんだと思う。
ジャコウネコ科に属しているハクビシン。
見た目はイタチに近い。
果実などを食べる草食傾向の強い、雑食性だ。
つまりゴミもあされる。
これが人間の街で生きていけるかどうかのキーワードだ。
狸は今も街中にいる。
しかし狐はいない。
それも狸は雑食性で狐は肉食だからだ。
思えば僕の出身地茨城では稀にハクビシンをペットとして飼ってる家があった。
しかしハクビシンは家畜ではない為、あまり慣れないのではないかと思う。
おそらく個体差はあるだろうが。
しかしこのハクビシン、中々にやっかいな存在のようだ。
元々は狸などの使い古したす穴などを寝床にして森の中では暮らしていたようだが、もしこれが人間の家の屋根裏ならばその糞や尿が家主を悩ませる。
もしあなたが農家の方であるならば果物や作物を食い荒らされる。
ネットでハクビシンと調べると一番最初に出てくるのも学術的な記述ではなく、ハクビシン駆除、などといったハクビシンが見れば卒倒しかねない内容のものだ。

ハクビシンは動物としては非常に弱い存在だ。
犬のように早く長く走れるわけではない。
猫のように足の爪や俊敏な反射神経を持ってる訳でもない。
しかし犬や猫のいない、樹上にハクビシンは逃げたのだ。
面と向かって戦えば決して勝てないであろう犬や猫とわざわざ戦う事無く、雑食性を存分に生かし樹上やゴミを漁ってたくましく生きる。

例えば子供たちに何の動物が好きと聞けば、ある子はライオン、ある子は虎。
またある子はゾウ、犬などと答えるだろう。
誰も僕の憧れはハクビシンとは言わないと思う。
でもそれとは別にハクビシンは今も堂々と自然の中で生きている。
自分の生き方を恥じる事も言い訳する事も無く。
天は決して何かと何かを比べて自分と卑下する事はないのだ。
ただ自分の出来る事を淡々とやる事。
僕がハクビシンから学ぶべき事はその一つの事だと思う。

 

 

BOXER(ボクサー)
1983年3月3日、茨城県大洗町生まれ。AB型、魚座。
港町に育った幼少時代からポケット図鑑を胸に忍ばせる。
近くに自然がありながら現実の動物というよりかは文献の中の動物に興味を持つ。
中学、高校と特に目立った事をしない学生生活、高校の終わりからボクシングを始める。
そんな中でも知識は増えていく。
大学も国際経済学と全く動物には関係のない学部に進学しボクシングからダンスに移行、
そんな中でも動物の知識は蓄積され続ける。
現在は代々木を拠点にTHE BEATDOWN BROTHERSのメンバーとしてhouse danceを踊り、
レッスンも持ちながらメッセンジャーをしている。
主に伊坂幸太郎の小説、テレビ、ネットなどなど多方面からの動物への情報収集に精を出す。
現在もダンサーとメッセンジャーという動物とは全く関係のない仕事をしながら
動物への飽くる事なき探究心を持て余している。絵なども描く。

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