「バッグ&レジスターソング」「素敵なふたり」
2014.12.08
ponto…2014年3月、小説家・温又柔と音楽家・小島ケイタニーラブが、朗読×演奏によるパフォーマンスをはじめ言葉と音を交し合いながら共同制作するために結成したユニット。同年9月、構成・音響・演奏をとおして2人の活動を支える伊藤豊も雑談家として加入。 SBBで行われている温又柔と小島ケイタニーラブの創作イベント「mapo de ponto」でできた作品をこちらのページで公開中。
_バッグ&レジスターソング(小島ケイタニーラブ)
どこまで 出掛けよう
どこまで 連れてこう
どこまで 歩いてこう
どこまで 連れてこう
どこまで 出掛けよう
どこまで 連れてこう
Kvar 4 素敵なふたり(温又柔)
BONNE ANNEE ET BON DEPART……
「フランスでうまれたんなら、
あたしだっていまごろフランス語をしゃべっていたのよ。」と告げたら、
くるみちゃんは、「すてきね」 とまるい瞳をきらりとさせる。
ほかの女の子だったら、こうはならない。
「ウソ~」とか「ヘンなの~」とか子どもっぽくうたがうだけ。
だからあたしは、くるみちゃんはすごいって思う。
あたしの知ってる女の子の中でもいちばんチャーミングで、そしてクール。
1年ぐらい会わなくなったって、あたしたちの仲はたしかなの。
だって、もともとあたしたちは年に1度の友だち。
くるみちゃんのお母さんは、あたしのお父さんの妹。
そうね、つまりあたしたちは従姉妹どうしってこと。
あたしのほうが半年早く生まれた。
いま、あたしたちは小学3年生。
来年の夏休みは、10才のお祝いをしなくちゃねって思ってる。
なにしろあたしたちは、夏休みの友だち。
今年も、くるみちゃんとくるみちゃんのママは北海道からヒコーキにのってやっってきた。
あたしはくるみちゃんからヒコーキの話をきくのが好き。
あたしは一度ものったことがない。でもくるみちゃんは赤ちゃんの頃から数えきれないぐらいのっている。
ピューッてとびあがる瞬間がサイコーよ。別世界にいくきもちになるの。
あたしのこころはくるみちゃんのコトバでピューッとはねあがる。
だからあたしも、くるみちゃんの心をキラキラさせられるのならうれしい。
あのね、あたしたちは今ごろフランス語をしゃべっていたかもしれない……
フランスでうまれたのなら……
くるみちゃんが、「すてきね」と笑う。
ボナネ・エ・ボンデバー
けれどもーー
あたしとくるみちゃんはフランスのことなんて実はなんにも知らない。
真っ先に思いついた外国の名まえがたまたまフランスだっただけ。
もしかしたらフランス語をしゃべっていたかもしれない、という想像はあたしたちをとびきりワクワクさせる。
「もしかしたらこの感じ、くるみちゃんのいうヒコーキがとびあがる瞬間と似てるのかしら?」
くるみちゃんが「ふふふ、そうかもね」と笑う。トントンと扉をたたく音がする。おばあちゃんが、この小さなお部屋にはあなたたちの笑い声がキラキラ満ちているわねって言いながらマドレーヌと白ぶどうのジュースを出してくれる。外はとっても暑いからおうちから出ちゃだめよってあたしたちは命じられたのだった。
ものすごーく暑いの、その麦わら帽子だって暑がるぐらいよ、だからおうちで遊んでなさいね、
ふたりともおりこうさんだからーー。
おりこうさん、だなんて。おばあちゃんたら、あたしたちは幼稚園児じゃないのよってちょっと不満だったけれどーー 「くるみちゃんとならあたしのお部屋でずーっと遊んでいてもちっともあきないわ。
ううん、むしろいつもあっというまに時間がたってしまうの。」
あたしが言うと、おばあちゃんは口に手のひらをあててホホホと笑う。
それじゃあ、おじゃまいたしました。
おばあちゃんが出ていったあと、あたしはくるみちゃんの耳もとでささやく。
もしかしたら、おばあちゃんもフランス語をしゃべっていたかもしれない。
おばあちゃんも? すてきね。
すてきよ。
マドレーヌもフランスのお菓子なのだとはおもいもせず、あたしとくるみちゃんは、あたしとくるみちゃんの心の中の架空のフランスで遊びつづける。
いつか本当にいっちゃいたいね、フランスに。
すてきね。
すてきよ。
くるみちゃんの北海道よりもうんととおくへ。ほんとのほんとの別世界へ。
おとなになったあたしとくるみちゃんは手と手をとりあってピューッと飛んでいく。
BONNE ANNEE ET BON DEPART……
フランスに行ったら、あたしとくるみちゃんみたいな女の子と友だちになりたい。
従姉妹同士で親友でもあるかのじょたちは、カーテンのレースがふわふわ揺れる可愛らしい部屋でささやきあう。
あたしって今ニホンゴをしゃべっていたかもしれないわ。
すてきね。
C’est formidable !
ニホンでうまれていたらあたしたちは、ニホンゴではなしていたのよ。
C’est formidable !
それからあたしたちみたいなふたりの女の子は、トーキョーに行く夢をみる。
パリよりももっと遠くへ。ほんとのほんとの異世界を。
女の子たちは夢をみる。
BONNE ANNEE ET BON DEPART !!
女の子たちはどこにでもいる。
トーキョー、サッポロ、ホンコン、ソウル、イスタンブールにパリ、ローマ……
空を飛びながらあたしたちみたいに、とびっきりキュートでクールでチャーミングな女の子たちと手をふりあうの。
コンニチハ、ニーハオ、ボンジュール……
C’est formidable !
すてきね。
「しほちゃん、今年もくるみといっぱい遊んでくれてありがとう。」
くるみちゃんのママがあたしに言う。
これからくるみちゃんと叔母さんは空港に行ってヒコーキにのって北海道のおうちに帰る。
夏はつづくけど、あたしの夏休みは一足早く終わる。
くるみちゃんとの時間があたしの夏のど真ん中。
「こちらこそありがとうってホラ。」ママがあたしを小づく。
昔はおばあちゃんもママも叔母ちゃんも、あたしたちがバイバイしたくなくて泣きじゃくるのをなだめるのに大変だった。でももうそんな心配いらないわ。あたしたちは知っている。離れていても自分たちの仲はたしかなの。だからあたしはバイバイと告げる代わりに年に1度のたいせつな友だちに耳打ちする。
おとなになったら、ホンモノのハイヒールをはいて、まつげを思いっきりくるんとまいて、
とびっきりすてきな格好をして、2人でフランスに行こう。
くるみちゃんはうなずく。きっと心の中で 「すてきね」 と言っている。
あたしがあげたクールドウクルールのショッピングバッグを左手にさげている。あれはママがお正月に買い物をしたときのもの。白地に赤い鳥かごの絵が描いてあり、小さな愛らしい鳥がいまにも空に羽ばたこうとしている図柄のショッピングバッグ。一目であたしは気に入った。ひとつしかなかったけど、一目みた瞬間、「すてきね」とホメてくれたくるみちゃんになら、あげちゃうのは惜しくなかった。
BONNE ANNEE ET BON DEPART
鳥かごのかたわらに描かれたしおりの絵にある文字がフランス語であることをあたしもくるみちゃんもまだ知らない。その意味が「あけましておめでとう&よい出発を!」ということもまだ知らない。
ーあたしたちは9才。
ーこれからおとなになるところ。
ーくるみちゃん。
ーあたしたちはすてき。
ーいまもすてきだけど、これからもどこまでもすてきになるんだわ。
ーA l’annee prochaine ♡
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引用:『見た目よし!機能よし!のショッピングバッグ・コレクション』(グラフィック社)
p13 「わがままで移り気な女の子に”チャーミングな事件”が起こり、毎日が今よりちょっとHAPPYになるようにーーそんな思いが込められている”クルール”のショッピングバッグ 」
【店主の一言メモ】
今回の創作室で、ショッピングバッグを送り合うという女の子の文化?があるのだと知りました。
お客さんも女性の方はみんな共感していました。女の子って不思議で楽しいです。
ムービー撮影:朝岡英輔