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それぞれの道具「道具と出合う、本の中へ」 14 ”蝙蝠(こうもり)傘”

2017.08.28

中澤 季絵

中澤季絵(なかざわ・きえ)イラストレーター/絵描き  絵で暮らしをいろどる楽しさを軸に幅広く活動中。理科系出身、生き物がとてもすきです。脇役蒐集人。このページでは、本の中の道具を描き連載中。 www.kienoe.com

蝙蝠(こうもり)傘

「それにしても、幹子が毎日学校へ持ってくる蝙蝠傘は非常に大きなもので、忽(たちまち)学校中の評判になりました。」

『童話集 春』小学館文庫より
「大きな蝙蝠傘」 竹久夢二 作

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いつの日か転校生だった頃。あたらしい環境に飛び込んだとき。
みんなと違うところが妙に際立ってしまい落ち着かないドキドキがあったっけ。

この物語の主人公、幹子は最近、田舎から都会の学校へやってきた新入生だった。
幹子は服装や持ち物に漂うみんなとの違いを少しも気にかけないで、勉強や運動などにいそしみ、
ぐんぐん育つのんびりした少女。そんな幹子が毎日学校へ持ってくる蝙蝠傘は非常に大きなもので、
たちまち学校中の評判になり、同級生の時子と朝子に、ちょっといじわるにからかわれるようになる。

わたしたちが選ぶ何気ないひとつひとつにきっと、偏愛やこころの中味、今のわたしたち自身が
こぼれ出ている。それがたとえ、ただの傘1本でも。
好き、当たり前、は人の数だけ存在しているから、どんな時も、何を言われても、
これが自分ですってここに在ることしかできない。それは悲しいことではなくて素晴らしいことなのだと思う。

幹子は変わらず、自分のままでいたうえに、物語の最後には傘をきっかけに時子や朝子と仲良く受け入れあう。
雨の日、仲良く一緒の大きな傘に入る幹子たちを見てほっと嬉しくなった。

そのままでいいんだよ、どこかでやっぱり、そう思う。
お互いの「違い」や「変なところ(時にそう見えているだけなのだけれど)」が心を開きあう
鍵になってきたことを知っているから。持ち寄る「違い」が豊かな科学変化を引き起こし、
思いがけない宝物を生み出すことを知っているから。
何時だってわたしたちは、もっとわかり合おうとすることを止めないのかもしれない。

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2017/9/2-9/14
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